小泉内閣の掲げた構造改革によって、日本は深刻な格差社会になりつつある。グローバリゼーションの進展により、世界でも貧困と格差が拡大している。
深刻化する所得格差
「20代の所得格差が拡大し、固定化が懸念される」。厚生労働省が毎年作成する「労働経済白書」2006年版では、これまでの政府見解とは異なった衝撃的な内容が明らかにされた。
今回の白書の基になったのは、厚生労働省の「所得再配分調査」データだ。2002年度の当初所得データによれば、年収一千万円以上の世帯が13%を占める一方、百万円未満の世帯は約23%になり、二極分化している実態が明らかになった。
子どもが就学援助などを受けている子育て世代では、「収入ゼロ」と申告する世帯が増えており、通常考えられている以上に「貧困」が蔓延していると考えられる。格差の度合いを示す指標であるジニ係数は1980年代から上昇し続け、30代後半の男性で30%近くもアップした。
これまで国会論議でも格差問題は取り上げられてきたが、小泉首相は「問題になるほどの格差はない」と繰り返し、それに呼応する内閣府も「もともと所得や資産の差が大きい高齢者世帯が増えてきただけで、見かけ上の格差拡大にすぎない」と格差拡大論に対する否定的見解を発表してきた。今回明らかとなった厚労省の調査結果は、政府部内での意見と認識の食い違いを露にしている。
「労働経済白書」では、資産格差の拡大を実証するデータも示されている。たとえば貯蓄ゼロの世帯が05年には23・8%と調査開始以来最大を記録。これに対し、貯蓄保有世帯の平均貯蓄額は1544万円と、10年前の1287万円から20%も増加していた。
さらに「白書」では、30~40歳代の正社員の間でも、成果主義賃金の導入が賃金の格差を広げている実態に言及。しかも、30代前半の男性正社員の配偶者がいる割合は約41%なのに対し、非正規雇用では約8%だ。最初の調査時から2年間のうちに結婚した人は正社員で約10%だったのに対し、非正規では約3%にとどまっている。合計特殊出生率が1・25に落ち込み社会的な衝撃を与えているが、若者の間に広がる格差が、少子化を進める要因になっているのは間違いない。
小泉首相は、「格差がない社会なんてあり得ない。格差を認め、力を発揮できる社会が望ましい」と述べている。しかし各人の力が発揮されていくためには、格差が固定化されるのではなく、「再挑戦」が可能になることが不可欠だ。「白書」では、年齢を問わずに就職希望者を短期間試験的に受け入れる企業への助成拡大など、「再挑戦」を支える政策対応を促している。
金持ちだけを優遇する
急激な格差拡大を促してきたのは、金持ちを優遇しながら、増税し福祉を切り捨てる新自由主義的な政策だ。経済評論家の森永卓郎氏によれば、この政策を合理化する考え方の一つに、「付加価値を生み出すのは、みんなの努力ではなく、一部の能力のある人の努力」という手前勝手な理屈がある。こんな考え方に基づいて所得税の最高税率を70%から37%に引き下げる一方で、配偶者特別控除、老齢者控除を廃止し、年金や国民健康保険の掛け金の値上げを行ってきたのだとしたら噴飯ものだ。
政府は、定率減税と法人税引き下げを「恒久的減税」として実施したにも関わらず、財政危機を理由に定率減税を廃止する一方、法人税は引き下げを継続しようとしている。来年6月徴収分からの税改正では、個人住民税は一律10%になり、所得税も定率減税廃止分を上乗せして課税される。
これにより年収300万円の課税額は住民税、所得税あわせて18万8500円にもなり、その他の社会的控除を勘案すると単身者の場合手許には260万円ほどしか残らない。企業が優遇され、国民への課税はますます増えていくのだ。
額に汗することなく株の売買で100億円儲けても、売却益に対する課税はわずか20%だ。一方で、収入が激減した上に税金が増え、生活基盤そのものが脅かされるギリギリの状態に多くの労働者が追いやられている。
病気や怪我、会社の倒産などをきっかけに職を失い、社会的復帰が困難になる状況は誰にでも起こりうる。こうした人々を排除するのではなく、社会的に包摂していく機能を充実させなければ、不平等が固定化され、結果として社会全体の活力が失われてしまう。
日本におけるセーフティ・ネットの象徴は生活保護制度だ。ここ10年で保護を受ける世帯数は増加し、120万人を突破したという。しかし、この制度は多くの問題を抱えている。生活保護は、労働所得がわずかでもあると、その分を扶助費から差し引かれ、また保護そのものを打ち切られるケースが多い。その結果一度生活保護が認められると、労働や自立へのインセンティブが働かなくなってしまい、社会の底辺で固定化してしまう。
日本の生活保護制度は、イギリスのブレア政権が「第三の道」のスローガンとして掲げた「社会的包摂」「福祉から労働へ」とは対照的に、生活保護に陥った人がそこから再び立ち上がり、再挑戦していく制度として整っているとはとてもいえない。むしろ個人の尊厳と自立心を奪い、社会的階層分化を固定化するものになっている。働いて収入を得ても50%が手元に残る在職老齢年金などを参考に、制度の見直しが求められている。
かって失業や病気、怪我で困窮した人を救済し、再生を助けてきた家族や親戚、地域のコミュニティーは急速に機能を失いつつある。相互扶助の自治的な繋がりを再建すると共に、税制や福祉制度のあり方を改革し、新自由主義、市場原理主義的な構造改革路線から脱却していくことがますます問われている。
絶対的貧困の拡大
メリルリンチ日本証券によると、居住目的の不動産を除く100万ドル以上の資産を保有する人は世界で830万人いるが、その6人に1人が日本人だという。グローバリゼーションのなかで、先進国のごく一握りの人々が極端に豊かになる一方で、貧困と格差が拡大の一途をたどっているのも世界の現実だ。
約60億の世界人口のうち、現在なお、12億もの人々が貧困状態の中で生活している。最も貧しい5ケ国と、最も豊かな5ケ国の一人当たりGDP(PPP)の平均を比較すると、1950年には1対19であった格差は、1992年には1対37にまで拡大した。
特にサハラ以南のアフリカ諸国は世界で最も貧しい地域だ。国際社会の援助が差し向けられ、「貧困を過去のものにしよう(Make Poverty History)」という標語が掲げられてもなお、解決し得ない多くの問題を抱えている。 アフリカ諸国は、独立を実現した1960年代とは対照的に、1970年代以降経済成長の低迷に苦しんでおり、多くの国ではマイナス成長を記録している。国民の半数以上が1日1ドル以下の生活を送っている国もある厳しい状況だ。
昨年、スコットランドのグレンイーグルスで開かれたG8サミットでは、アフリカからの代表8名を加えてアフリカ問題について討議が行われ、一部の債務免除や、500億ドルの途上国支援の大半を今後5年間アフリカに差し向けることで合意された。日本もODAを100億ドル増加させることを約束し、再びアメリカに次ぐ世界の援助大国となった。
しかし、事態は少しも改善されていないばかりか、アフリカ諸国の貧困、格差はますます深刻さを増している。国連は今年2月、アフリカの30ケ国で4000万人が食糧危機にあり、緊急援助が必要だと発表した。国際社会は2015年までに世界の飢餓を半減させる目標を掲げたが、早くも修正を迫られている。
20年以上もアフリカに係わってきたジャーナリストの石弘之氏は、「サハラ砂漠から南のアフリカで、大変なことが起きている」「事態は予想を大きく超えて悪化している」(『子どもたちのアフリカ』2005岩波書店)と警鐘を鳴らしている。
事態悪化の最大の原因はエイズの蔓延だ。この20年間に世界のエイズウイルス(HIV)の累計感染者数は6500万人に上り、2500万人以上が死亡した。死亡者のうち2000万人はサハラ以南のアフリカの感染者だ。国連エイズ特別総会では「15歳から24歳までの感染者数を25%減らす」と目標を掲げたが、現在も感染は拡大しており達成は難しい状況だ。
加えて「貧困」と「犯罪」が事態を悪化させている。1975年には47歳だった平均寿命は40歳にまで下がり、寿命、識字率、所得、就学率など開発の程度を総合指数化した国連の「人間開発指数」の下位25ケ国のすべてがアフリカ諸国で占められる。
今年7月中旬、ロシア・サンクトペテルブルクで開催される予定のG8サミットを前に、アフリカ問題は国際社会に突きつけられる大きな課題だ。ロシアなどはアフリカの貧困国支援を打ち出しているが、巨額の援助だけでは不十分だ。アフリカ各国の腐敗した政権の下で、巨額の援助が中身のないプロジェクトに浪費され、資金が国外の銀行口座に消える例は後を絶たない。
こうした状況に絶望し、優秀な人材は次々と国外へ流出している。アフリカから先進国へ移住する医療従事者は年間2万3000人にのぼる。このことは、エイズや貧困に苦しむ多くの人々が見捨てられていくことを意味している。
フランスの哲学者ポール・リクールは、「人の苦しみはそれを見た者に義務を負わせる」と語った。世界が共同して、この義務を果たしていくための努力をすべきだろう。
アフリカの貧困をほっとけないが
ホワイトバンド・キャンペーン
坂本龍一や有名タレントなど、セレブを起用したテレビCMで3秒間に一度指を鳴らし、「アフリカでは貧困のために3秒に一人の子どもが死んでいる」とメッセージを発信したホワイトバンド・キャンペーン。
この宣伝の成功により、白いリストバンドは昨年7月からこの春までに450万本を売り上げた。総売上が140億円、収益は5億1800万円に達した。
キャンペーンが始まって間もなく、ネット上の議論を発端として「アフリカの子どもを救うといいながら、バンドの売り上げは一円もアフリカに届かない」という批判がこのキャンペーンに加えられるようになった。
確かに、ホワイトバンドのテレビCMなどを一見すると募金活動とも見えなくはない。しかし、日本でこのキャンペーンを担った「ほっとけない 世界のまずしさ」の呼びかけ文などを見れば、アフリカに直接援助を送るための募金活動だとは一言も書かれていない。
むしろ多くの市民にアフリカの現状を知らせ、貧困を生み出している日本や世界の改革を訴えるのが狙いで、アドボカシーが目的とされている。その中身をめぐって批判や議論を行うことは当然だが、キャンペーンの主旨や目的が金儲けなどと批判される類のものではなかった。
ホワイトバンド・キャンペーンは、イギリスを中心に世界的に展開された。昨年7月にスコットランドで開催されたG8で議長を務め、アフリカの貧困問題でイニシアチブをとりたかったブレア政権の後押しもあり、半ば「官製」の色彩が強かったことは否めない。ただ、多くの人々の関心を集め、アフリカの貧困問題や、援助や支援のあり方を巡って広範な議論が巻き起こったことには意味がある。
ホワイトバンドの成功に後押しされてかどうかは別にしても、今年は「ホテル・ルワンダ」や「ナイロビの蜂」など、アフリカをテーマにした社会派の映画作品が次々と公開されている。
貧しい人たちが救いを求めるために、白い包帯を腕に巻いたのがホワイトバンドの由来らしい。アフリカを覆うエイズや貧困について多くの人びとの関心を呼びさまし、問題の複雑さと困難さを踏まえつつも、そこから新しい社会運動が成長していくならば、ホワイトバンドの試みも無駄ではなかったはずだ。
(2006年6月25日発行 『SENKI』 1216号1面から)
2008年2月14日木曜日
世界で広がる経済格差 -市場原理主義のもたらしたもの-
経済格差「不満」、日本は83%…BBC・本社世論調査
読売新聞社は英BBC放送と初の共同世論調査を実施した。
経済的な格差に不満を感じる人は、日本では83%に達し、サミット(主要国首脳会議)参加8か国ではイタリアの84%に次ぐ高い数値だった。調査を行った34か国の中でも4番目に高く、格差問題の広がりに、国民が不満を募らせていることがわかった。
経済的格差について、調査では「国民の間に豊かさが十分に公平に行き渡っていると思うか」と聞いた。日本では「全く公平ではない」が33%で、「あまり公平ではない」を合わせると83%が不満を感じていた。34か国の不満を感じる割合の平均は64%で、日本の83%は、これを大きく上回った。
不満を感じる人が最も多かったのは韓国の86%で、イタリアとポルトガルの84%に日本が続いた。主要国ではフランス78%、英国56%、米国52%などだった。
BBC・読売共同世論調査は昨年10月から今年1月にかけて行い、34か国の3万4528人から回答を得た。
(2008年2月7日22時39分 読売新聞)
経済的な格差に不満を感じる人は、日本では83%に達し、サミット(主要国首脳会議)参加8か国ではイタリアの84%に次ぐ高い数値だった。調査を行った34か国の中でも4番目に高く、格差問題の広がりに、国民が不満を募らせていることがわかった。
経済的格差について、調査では「国民の間に豊かさが十分に公平に行き渡っていると思うか」と聞いた。日本では「全く公平ではない」が33%で、「あまり公平ではない」を合わせると83%が不満を感じていた。34か国の不満を感じる割合の平均は64%で、日本の83%は、これを大きく上回った。
不満を感じる人が最も多かったのは韓国の86%で、イタリアとポルトガルの84%に日本が続いた。主要国ではフランス78%、英国56%、米国52%などだった。
BBC・読売共同世論調査は昨年10月から今年1月にかけて行い、34か国の3万4528人から回答を得た。
(2008年2月7日22時39分 読売新聞)
2008年1月15日火曜日
サービス業の生産性、アイデアで向上を
サービス業の労働生産性をいかに向上させるかが、今後の経済成長の課題に浮上してきた。第三次産業は国内総生産(GDP)、就業人口のそれぞれ7割を占める。不動産、電力、金融、通信などを除く狭義のサービス業だけでも4割を超え、この比率は年々高まっている。
2007年度版の経済財政白書は経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに日本の労働生産性は主要7カ国中最下位だと指摘する。原因とされたのがサービス業だ。
1995年から2003年までの生産性の伸びをみると製造業では日本が4.1%で七カ国中トップだが、サービス業はわずか0.8%。サービス業トップの米国(2.3%)に比べかなり見劣りする。製造業とサービス業の「差」という点でも、米、英、ドイツに比べ極端に大きい。
サービス分野には若く低廉な労働力に頼る企業も多く、人口減の直撃を受けるのは確実。経営者にとっても、働く人々の賃金上昇のためにも、生産性向上は必須だ。
労働生産性は、生み出した価値を投入した労働量で割ることで得られる。取り組みやすいのは「分母」の労働投入量を小さくすることだ。経済産業省が今年春にまとめたサービス産業のイノベーションに関する報告書は、サービス業の生産性向上のための実験結果を紹介している。
宿泊業で清掃手順をビデオ録画し分析。展示会場設営時にパネルの組み立て手順を標準化。こうした製造業が得意とする手法の応用で、作業時間や人員の大幅削減が可能との結果を得た。「製造業の現場を引退する団塊世代の人材がほしい」と語るサービス業の経営者は多い。
しかし労働コストの押し下げにばかり目を奪われてはならない。経産省の報告書も提起しているが、労働生産性を向上させるもう一つの方法がある。「分子」にあたる付加価値を高める高付加価値、高価格戦略である。そのためにはアイデアや商品開発力が必要になる。労働コストをむやみに増やさず、付加価値や価格を上げるのは簡単ではないが、サービス業界の先進企業は、すでに取り組みを始めている。
長野県軽井沢町に2005年開業した和風高級リゾートホテル「星のや 軽井沢」がアジア諸国に比べ人件費比率の高い日本で、従業員の待遇を落とさず、国際級のサービスをするために採用した仕組みが注目されている。客ごとに特定のスタッフを決め、受付、清掃、食事などを一貫して担当する。
宿泊業は通常の分業体制では時間により仕事の繁閑の差が大きい。こうした方式なら仕事が平準化され、客の個性に応じた接し方もできる。
IT(情報技術)の活用も有効だ。単なる合理化だけではなく、工夫した使い方が大切になる。
2002年、タクシー業界の規制緩和を受け、東京に誕生したハロー・トーキョー(東京・江東)は全地球測位システム(GPS)で乗客を獲得するのが上手な運転手の走行パターンを解析。このノウハウを共有し、全産業平均より高い賃金を社員に支払えるようになった。営業区域の規制がなければ、さらに事業を拡大できるという。各業界でも規制を一段と緩和すれば、ビジネスは広がる。
接客を伴うサービス業では、やみくもな標準化、マニュアル化だけが生産性向上の道ではない。現場へ権限移譲し、高度なスキルを持つ社員を育成する。そのためにベテラン社員の知恵や経験を共有する。知恵を公開する社員にはきちんと処遇し、「出し惜しみ」を防ぐ。そんな人事管理や風土の改革も必要になる。
対外進出も検討すべき戦略だ。「10分1,000円、洗髪なし」の理髪店QBハウスは1996年に創業し、時間価値を重視する消費者をとらえ現在350店を超す。客1人の所要時間が1時間で4,000円前後という通常の理髪店に比べ時間当たり売上高は大きく、洗髪用の設備投資も不要というアイデアビジネスだ。同社は東南アジア各地でも店舗を展開、海外店は現在、約30店。清潔、便利、丁寧な接客という特徴がアジアで増加する中流層に受け入れられた。
サービス業では言語や習慣が大きな意味を持つ。「そのため製造業に比べ海外展開が遅れていた」と今年度版の通商白書も指摘する。しかし今後は「生産性向上へグローバル展開を目指すべきだ」と提言する。
国際競争に打ち勝つには産官学連携によるノウハウと人材の蓄積も必要だ。米メジャーリーグは大学教授らとスケジュール作成システムを開発することで、複雑な条件を満たし、興行的価値も高い試合日程を作れるようになった。シンガポールでは国立大学がホテル経営者の育成で実績のある米コーネル大と提携、教育コースを設置した。日本も本格的な産官学の協力を検討すべき時期だ。
(THE NIKKEI WEEKLY日本語付き記事より)
2007年度版の経済財政白書は経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに日本の労働生産性は主要7カ国中最下位だと指摘する。原因とされたのがサービス業だ。
1995年から2003年までの生産性の伸びをみると製造業では日本が4.1%で七カ国中トップだが、サービス業はわずか0.8%。サービス業トップの米国(2.3%)に比べかなり見劣りする。製造業とサービス業の「差」という点でも、米、英、ドイツに比べ極端に大きい。
サービス分野には若く低廉な労働力に頼る企業も多く、人口減の直撃を受けるのは確実。経営者にとっても、働く人々の賃金上昇のためにも、生産性向上は必須だ。
労働生産性は、生み出した価値を投入した労働量で割ることで得られる。取り組みやすいのは「分母」の労働投入量を小さくすることだ。経済産業省が今年春にまとめたサービス産業のイノベーションに関する報告書は、サービス業の生産性向上のための実験結果を紹介している。
宿泊業で清掃手順をビデオ録画し分析。展示会場設営時にパネルの組み立て手順を標準化。こうした製造業が得意とする手法の応用で、作業時間や人員の大幅削減が可能との結果を得た。「製造業の現場を引退する団塊世代の人材がほしい」と語るサービス業の経営者は多い。
しかし労働コストの押し下げにばかり目を奪われてはならない。経産省の報告書も提起しているが、労働生産性を向上させるもう一つの方法がある。「分子」にあたる付加価値を高める高付加価値、高価格戦略である。そのためにはアイデアや商品開発力が必要になる。労働コストをむやみに増やさず、付加価値や価格を上げるのは簡単ではないが、サービス業界の先進企業は、すでに取り組みを始めている。
長野県軽井沢町に2005年開業した和風高級リゾートホテル「星のや 軽井沢」がアジア諸国に比べ人件費比率の高い日本で、従業員の待遇を落とさず、国際級のサービスをするために採用した仕組みが注目されている。客ごとに特定のスタッフを決め、受付、清掃、食事などを一貫して担当する。
宿泊業は通常の分業体制では時間により仕事の繁閑の差が大きい。こうした方式なら仕事が平準化され、客の個性に応じた接し方もできる。
IT(情報技術)の活用も有効だ。単なる合理化だけではなく、工夫した使い方が大切になる。
2002年、タクシー業界の規制緩和を受け、東京に誕生したハロー・トーキョー(東京・江東)は全地球測位システム(GPS)で乗客を獲得するのが上手な運転手の走行パターンを解析。このノウハウを共有し、全産業平均より高い賃金を社員に支払えるようになった。営業区域の規制がなければ、さらに事業を拡大できるという。各業界でも規制を一段と緩和すれば、ビジネスは広がる。
接客を伴うサービス業では、やみくもな標準化、マニュアル化だけが生産性向上の道ではない。現場へ権限移譲し、高度なスキルを持つ社員を育成する。そのためにベテラン社員の知恵や経験を共有する。知恵を公開する社員にはきちんと処遇し、「出し惜しみ」を防ぐ。そんな人事管理や風土の改革も必要になる。
対外進出も検討すべき戦略だ。「10分1,000円、洗髪なし」の理髪店QBハウスは1996年に創業し、時間価値を重視する消費者をとらえ現在350店を超す。客1人の所要時間が1時間で4,000円前後という通常の理髪店に比べ時間当たり売上高は大きく、洗髪用の設備投資も不要というアイデアビジネスだ。同社は東南アジア各地でも店舗を展開、海外店は現在、約30店。清潔、便利、丁寧な接客という特徴がアジアで増加する中流層に受け入れられた。
サービス業では言語や習慣が大きな意味を持つ。「そのため製造業に比べ海外展開が遅れていた」と今年度版の通商白書も指摘する。しかし今後は「生産性向上へグローバル展開を目指すべきだ」と提言する。
国際競争に打ち勝つには産官学連携によるノウハウと人材の蓄積も必要だ。米メジャーリーグは大学教授らとスケジュール作成システムを開発することで、複雑な条件を満たし、興行的価値も高い試合日程を作れるようになった。シンガポールでは国立大学がホテル経営者の育成で実績のある米コーネル大と提携、教育コースを設置した。日本も本格的な産官学の協力を検討すべき時期だ。
(THE NIKKEI WEEKLY日本語付き記事より)
2007年10月13日土曜日
偽装雇用について
2006年10月6日、朝日新聞は朝刊一面トップで、「日野自1100人偽造出向」の見出しで、東京労働局が同社を職業安定法で行政指導していたと伝えた。
実態は派遣労働者である1100人を、派遣会社と出向契約を結び、出向社員に見せかけて働かせているのは職業安定法が禁じる労働者供給事業にあたるとして、同年7月26日に文書で是正指導したというのである。出向社員として偽造された派遣社員の数は、本社工場(東京日野市)で300人、羽村工場(東京都羽村市)と新田工場(群馬県太田市)で800人の計1100人に上り、派遣会社は14社にのぼった。
労働者派遣法では、製造業の派遣労働に期間制限を設けている。少しでも人件費コストを下げたい製造メーカーからすれば、正社員を雇うより派遣社員を使ったほうが、賃金は半分以下ですむし、必要な人員調整も思うがまま。企業にとって、安く使い捨てにできる派遣社員はこのうえなく魅力的だ。そうであるだけに、かりに派遣社員が無条件で使えるとしたら、どのメーカーも正社員リストラを一挙にすすめ、製造現場にいるのは派遣社員ばかりということになりかねない。
そこで労働者派遣法は、派遣社員を受け入れる場合の制限期間を設けている。製造業においては、2004年3月の改正から07年2月までは、一つの職業の同じ業務について派遣社員を受け入れることができる期間は一年間に限定された(07年3月からは3年間)。しかも、この制限期間を超えて引き続き派遣社員を受け入れようとする場合は、派遣社員に対して「直接雇用」の申し込みを行うことを派遣先メーカーに義務づけている。派遣労働はあくまで「臨時的、一時的」というのが法の建前なのだ。
この「直接雇用」の申し込み義務を免れるために横行したのが「偽装請負」だった。御手洗冨士夫日本経団連会長が会長を務めるキャノンをはじめ、松下、東芝、日立といった日本を代表する大企業がこぞって脱法雇用に手を染めていた実態が、2006年夏以降、次々に明らかになった。
日野自動車の「偽装出向」もこの「偽装請負」と基本的には同じ目的の脱法行為だ。出向といえば、一般的には企業グループ間の技術交流や生産調整のための応援を目的におこなわれる。労働派遣以外には本業をもたない派遣会社から製造メーカーに労働者を出向させることなどありえない。それにもかかわらず、派遣社員を「出向社員」として受け入れる契約を結んでいた行為を指して、東京労働局は職業安定法に違反するとして是正指導をしたのだった。
実態は派遣労働者である1100人を、派遣会社と出向契約を結び、出向社員に見せかけて働かせているのは職業安定法が禁じる労働者供給事業にあたるとして、同年7月26日に文書で是正指導したというのである。出向社員として偽造された派遣社員の数は、本社工場(東京日野市)で300人、羽村工場(東京都羽村市)と新田工場(群馬県太田市)で800人の計1100人に上り、派遣会社は14社にのぼった。
労働者派遣法では、製造業の派遣労働に期間制限を設けている。少しでも人件費コストを下げたい製造メーカーからすれば、正社員を雇うより派遣社員を使ったほうが、賃金は半分以下ですむし、必要な人員調整も思うがまま。企業にとって、安く使い捨てにできる派遣社員はこのうえなく魅力的だ。そうであるだけに、かりに派遣社員が無条件で使えるとしたら、どのメーカーも正社員リストラを一挙にすすめ、製造現場にいるのは派遣社員ばかりということになりかねない。
そこで労働者派遣法は、派遣社員を受け入れる場合の制限期間を設けている。製造業においては、2004年3月の改正から07年2月までは、一つの職業の同じ業務について派遣社員を受け入れることができる期間は一年間に限定された(07年3月からは3年間)。しかも、この制限期間を超えて引き続き派遣社員を受け入れようとする場合は、派遣社員に対して「直接雇用」の申し込みを行うことを派遣先メーカーに義務づけている。派遣労働はあくまで「臨時的、一時的」というのが法の建前なのだ。
この「直接雇用」の申し込み義務を免れるために横行したのが「偽装請負」だった。御手洗冨士夫日本経団連会長が会長を務めるキャノンをはじめ、松下、東芝、日立といった日本を代表する大企業がこぞって脱法雇用に手を染めていた実態が、2006年夏以降、次々に明らかになった。
日野自動車の「偽装出向」もこの「偽装請負」と基本的には同じ目的の脱法行為だ。出向といえば、一般的には企業グループ間の技術交流や生産調整のための応援を目的におこなわれる。労働派遣以外には本業をもたない派遣会社から製造メーカーに労働者を出向させることなどありえない。それにもかかわらず、派遣社員を「出向社員」として受け入れる契約を結んでいた行為を指して、東京労働局は職業安定法に違反するとして是正指導をしたのだった。
2007年10月11日木曜日
日雇い派遣を生み出した労働者派遣法の規制緩和
労働者派遣法は1985年に成立、翌86年の施行された。
当初は、職業安定法で定める「労働者供給事業の禁止」の例外として、常用雇用の代替とならないよう、職業の専門性・労務管理の特殊性を考慮して派遣できる業務(適用対象業務)を限定してスタートした。
法律制定時の適用対象業務は13業務。半年ほどすると、政令の改正により3業務が加えられ16業務に。その後、法改正を繰り返すも適用対象業務は16業務という状態が長く続いた。
しかし労働者派遣法は、バブル経済崩壊後の規制緩和の影響をまともに受け、1996年の改正で26業務まで拡大する。さらに1999年の改正では適用対象業務に対する考え方を180度転換。ネガティブリスト方式という方法で派遣できない業務を定め、それ以外のすべての業務で派遣を可能とする完全自由化へと大きく変貌を遂げた。
労働者派遣が禁止された業務は、「建設業務」「警備業務」「港湾運送業務」「医療関係業務(一部は可)」、そして製造ラインなどの「物の製造の業務」だ。しかし「物の製造の業務」は2004年に解禁され、派遣が可能になる。
このように雇用対象業務の自由化を受けて、人材ビジネスは急速に拡大していった。
厚生労働省が発表した「労働者派遣業務の平成十七年度事業報告の集計結果」をみると、対象業務が自由化される直前の1999年度での派遣労働者数は90万人、常用換算で31万人。これが2005年度にはそれぞれ255万人、124万人に達している。
当初は、職業安定法で定める「労働者供給事業の禁止」の例外として、常用雇用の代替とならないよう、職業の専門性・労務管理の特殊性を考慮して派遣できる業務(適用対象業務)を限定してスタートした。
法律制定時の適用対象業務は13業務。半年ほどすると、政令の改正により3業務が加えられ16業務に。その後、法改正を繰り返すも適用対象業務は16業務という状態が長く続いた。
しかし労働者派遣法は、バブル経済崩壊後の規制緩和の影響をまともに受け、1996年の改正で26業務まで拡大する。さらに1999年の改正では適用対象業務に対する考え方を180度転換。ネガティブリスト方式という方法で派遣できない業務を定め、それ以外のすべての業務で派遣を可能とする完全自由化へと大きく変貌を遂げた。
労働者派遣が禁止された業務は、「建設業務」「警備業務」「港湾運送業務」「医療関係業務(一部は可)」、そして製造ラインなどの「物の製造の業務」だ。しかし「物の製造の業務」は2004年に解禁され、派遣が可能になる。
このように雇用対象業務の自由化を受けて、人材ビジネスは急速に拡大していった。
厚生労働省が発表した「労働者派遣業務の平成十七年度事業報告の集計結果」をみると、対象業務が自由化される直前の1999年度での派遣労働者数は90万人、常用換算で31万人。これが2005年度にはそれぞれ255万人、124万人に達している。
日雇い派遣業界の実態
いつでも誰でも登録ができ、仕事の情報はケータイ電話のメールに送られる-。
一見、便利な働き方のように見える日雇い派遣。しかし、その多くは重労働にもかかわらず日給6000~7000円程度。このため毎日一稼動で一ヶ月20日働いても月収で12万~13万円程度にしかならない。一日二稼動、三稼動をこなせば、20万~30万円程度になるが、それができるのは体力のある若者に限られる。しかも仕事がない期間もあるため収入は安定せず、年収300万~400万円を維持するのはかなり難しい。
とても、労働基準法で定められた「人たるに値する生活を営むための必要を充たす」働き方とは言えない。
加えて、日雇いという究極の不安定雇用。一定期間同じ派遣先で働く「定番」であっても、必要がなくなればいつでも簡単にクビを切られてしまう。6ヶ月以上同じ派遣先で働き続けたので、有給休暇を申請したらクビを切られたというケースもある。
そればかりか、強制された集合時間からの賃金が払われないうえに、遅れればペナルティとして罰金をとられる、時間外・休日の割増が支給されない、200~300円の不可解な賃金控除をされる、登録時には備品等が押し売りされる――と違法だらけだ。
まさに究極の雇用の劣化。ワーキングプア、ネットカフェ難民を生み出す温床ともいえる働かせ方だ。
こうした働かせ方を可能にしてしまったのは、規制緩和の流れを受けた1999年の労働者派遣法の「改正」による。
一見、便利な働き方のように見える日雇い派遣。しかし、その多くは重労働にもかかわらず日給6000~7000円程度。このため毎日一稼動で一ヶ月20日働いても月収で12万~13万円程度にしかならない。一日二稼動、三稼動をこなせば、20万~30万円程度になるが、それができるのは体力のある若者に限られる。しかも仕事がない期間もあるため収入は安定せず、年収300万~400万円を維持するのはかなり難しい。
とても、労働基準法で定められた「人たるに値する生活を営むための必要を充たす」働き方とは言えない。
加えて、日雇いという究極の不安定雇用。一定期間同じ派遣先で働く「定番」であっても、必要がなくなればいつでも簡単にクビを切られてしまう。6ヶ月以上同じ派遣先で働き続けたので、有給休暇を申請したらクビを切られたというケースもある。
そればかりか、強制された集合時間からの賃金が払われないうえに、遅れればペナルティとして罰金をとられる、時間外・休日の割増が支給されない、200~300円の不可解な賃金控除をされる、登録時には備品等が押し売りされる――と違法だらけだ。
まさに究極の雇用の劣化。ワーキングプア、ネットカフェ難民を生み出す温床ともいえる働かせ方だ。
こうした働かせ方を可能にしてしまったのは、規制緩和の流れを受けた1999年の労働者派遣法の「改正」による。
派遣という働き方
派遣という働き方は、本来同一であるはずの「雇う人」と「仕事を与える人」が違うという特殊な雇用形態だ。つまり、雇用契約を結び給料を払ってくれるのはAという会社だが、働く場所と仕事の指示はB社という具合である。
また、違法ではあるが、派遣された会社からさらに別の会社へ派遣されるいわゆる二重派遣が行われるケース、またさらに別の会社といったような三重派遣なども少なくない。これでは自分が誰に雇われているのか、誰が給料を払っているのかわからなくなったとしても無理はない。このような働かせ方は、中間搾取いわゆるピンハネが行われたり、雇う側の責任があいまいになるということで、職業安定法で禁止されていた。
しかし、1985年に成立した労働者派遣法は、この職業安定法で禁止されていた労働者供給事業を労働者派遣に限りその規制から除外し、これを認めた法律である。当初は専門性の高い職種に限定されていたが、度重なる改正で今ではいくつかの禁止対象業務以外は労働者派遣が認められるようになった。
このような流れのなかで広がったのが、日雇い派遣だ。
労働者派遣は、そもそも臨時的・一時的に利用されるものであって、人件費コストの削減のために利用されるべきものではない。しかし、実際のところ企業は人件費コスト削減のために労働者派遣を利用しているのが現実だ。
また、使用者の責任を回避するのにも非常に使い勝手がいい。直接雇うと社会保険などを会社が負担しなければならないし、なによりクビにするときの手続きが面倒だからだ。その使い勝手のいい究極の形が、日雇い派遣なのだ。
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