サービス業の労働生産性をいかに向上させるかが、今後の経済成長の課題に浮上してきた。第三次産業は国内総生産(GDP)、就業人口のそれぞれ7割を占める。不動産、電力、金融、通信などを除く狭義のサービス業だけでも4割を超え、この比率は年々高まっている。
2007年度版の経済財政白書は経済協力開発機構(OECD)のデータをもとに日本の労働生産性は主要7カ国中最下位だと指摘する。原因とされたのがサービス業だ。
1995年から2003年までの生産性の伸びをみると製造業では日本が4.1%で七カ国中トップだが、サービス業はわずか0.8%。サービス業トップの米国(2.3%)に比べかなり見劣りする。製造業とサービス業の「差」という点でも、米、英、ドイツに比べ極端に大きい。
サービス分野には若く低廉な労働力に頼る企業も多く、人口減の直撃を受けるのは確実。経営者にとっても、働く人々の賃金上昇のためにも、生産性向上は必須だ。
労働生産性は、生み出した価値を投入した労働量で割ることで得られる。取り組みやすいのは「分母」の労働投入量を小さくすることだ。経済産業省が今年春にまとめたサービス産業のイノベーションに関する報告書は、サービス業の生産性向上のための実験結果を紹介している。
宿泊業で清掃手順をビデオ録画し分析。展示会場設営時にパネルの組み立て手順を標準化。こうした製造業が得意とする手法の応用で、作業時間や人員の大幅削減が可能との結果を得た。「製造業の現場を引退する団塊世代の人材がほしい」と語るサービス業の経営者は多い。
しかし労働コストの押し下げにばかり目を奪われてはならない。経産省の報告書も提起しているが、労働生産性を向上させるもう一つの方法がある。「分子」にあたる付加価値を高める高付加価値、高価格戦略である。そのためにはアイデアや商品開発力が必要になる。労働コストをむやみに増やさず、付加価値や価格を上げるのは簡単ではないが、サービス業界の先進企業は、すでに取り組みを始めている。
長野県軽井沢町に2005年開業した和風高級リゾートホテル「星のや 軽井沢」がアジア諸国に比べ人件費比率の高い日本で、従業員の待遇を落とさず、国際級のサービスをするために採用した仕組みが注目されている。客ごとに特定のスタッフを決め、受付、清掃、食事などを一貫して担当する。
宿泊業は通常の分業体制では時間により仕事の繁閑の差が大きい。こうした方式なら仕事が平準化され、客の個性に応じた接し方もできる。
IT(情報技術)の活用も有効だ。単なる合理化だけではなく、工夫した使い方が大切になる。
2002年、タクシー業界の規制緩和を受け、東京に誕生したハロー・トーキョー(東京・江東)は全地球測位システム(GPS)で乗客を獲得するのが上手な運転手の走行パターンを解析。このノウハウを共有し、全産業平均より高い賃金を社員に支払えるようになった。営業区域の規制がなければ、さらに事業を拡大できるという。各業界でも規制を一段と緩和すれば、ビジネスは広がる。
接客を伴うサービス業では、やみくもな標準化、マニュアル化だけが生産性向上の道ではない。現場へ権限移譲し、高度なスキルを持つ社員を育成する。そのためにベテラン社員の知恵や経験を共有する。知恵を公開する社員にはきちんと処遇し、「出し惜しみ」を防ぐ。そんな人事管理や風土の改革も必要になる。
対外進出も検討すべき戦略だ。「10分1,000円、洗髪なし」の理髪店QBハウスは1996年に創業し、時間価値を重視する消費者をとらえ現在350店を超す。客1人の所要時間が1時間で4,000円前後という通常の理髪店に比べ時間当たり売上高は大きく、洗髪用の設備投資も不要というアイデアビジネスだ。同社は東南アジア各地でも店舗を展開、海外店は現在、約30店。清潔、便利、丁寧な接客という特徴がアジアで増加する中流層に受け入れられた。
サービス業では言語や習慣が大きな意味を持つ。「そのため製造業に比べ海外展開が遅れていた」と今年度版の通商白書も指摘する。しかし今後は「生産性向上へグローバル展開を目指すべきだ」と提言する。
国際競争に打ち勝つには産官学連携によるノウハウと人材の蓄積も必要だ。米メジャーリーグは大学教授らとスケジュール作成システムを開発することで、複雑な条件を満たし、興行的価値も高い試合日程を作れるようになった。シンガポールでは国立大学がホテル経営者の育成で実績のある米コーネル大と提携、教育コースを設置した。日本も本格的な産官学の協力を検討すべき時期だ。
(THE NIKKEI WEEKLY日本語付き記事より)
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